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SW 227 – SXSW 2025

  • Webrain Production Team
  • Mar 27
  • 7 min read

今回のSeattle Watchでは、今月アメリカ・テキサス州オースティンで開催されたSXSWについて紹介したいと思います。同イベントでは、ソーシャルメディア、エンターテインメント、フードテック、量子コンピューティングなど、幅広い分野のテクノロジーの未来が語られました。また、絶滅したマンモスの復活を目指すようなユニークなスタートアップも登場しています。

 

SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)は、毎年3月に米テキサス州オースティンで開催される大規模なイベントで、映画・音楽・テクノロジー分野の祭典です。1987年に地元の音楽フェスティバルとして始まり​、現在では各業界のクリエイターやスタートアップ、企業が集う世界的なイノベーションのプラットフォームへと成長しています。今年のSXSWは3月7日から15日まで開催され、世界各国から約5万人が集まりました。


今年のSXSWでは、ソーシャルメディアやエンターテインメントにとどまらず、フードテックや量子コンピューティングなど、多様な分野におけるテクノロジーの未来について、各分野をリードする専門家による基調講演やセッションが開催されました。


まず、「The Future of Social」という基調講演には、新興SNSであるBlueskyのCEOであるJay Graber氏が登壇しました。反イーロン・マスクの動きが広がる中、X(旧Twitter)からBlueskyへの乗り換えが相次ぎ、現在Blueskyの利用者は全世界で約3200万人に達しています。Blueskyは、特定の億万長者や大企業によるプラットフォームの支配を防ぐことを目指し、”Billionaire Proof”(億万長者耐性)という概念を提唱しています。 これは、マスク氏によるTwitterの買収後、企業や個人の権力が中央集権的なSNSに及ぼす影響への懸念から生まれたものです。​Blueskyは、分散型プロトコルを採用し、ユーザーが自分のデータやフォロワーを保持し、異なるプラットフォーム間を自由に移動できる仕組みを提供しています。これにより、中央集権的な管理者が存在しない、オープンで透明なSNSを目指しています。


Graber氏は基調講演で、AIの学習データに対する需要が高まる中、AIポリシーの重要性がますます高まっていることを指摘しました。その中でXはAIの学習のためにユーザーの投稿をxAIに提供し、AIチャットボット「Grok」のトレーニングに利用していることに触れ、こうした中央集権的なプラットフォームに対抗するため、Graber氏はユーザーが自身のデータを生成AIにどのように使用されるか(または使用されないか)を選択できることが重要で、そのフレームワークを開発していると明かしました。


次に、Disney Experiencesの会長であるJosh D’Amaro氏と、共同会長のAlan Bergman氏は、” The Future of World-Building at Disney”というセッションで、BDX droidsというロボットを紹介しました。このロボットは、従来のアニマトロニクス(動物や架空生物の形と動きを精巧に再現するロボット)と異なり、ディズニーパーク内を自由に歩き回って、来場者や他のロボットと対話することが可能になるそうです。同社の開発者たちは、BDX droidsのデジタルアバターを作成し、強化学習を用いて仮想環境の中で何千体ものドロイドを放ち学習させることで、これを可能にしようとしています。


Disneyは、Fortniteなどの有名ゲームタイトルや、ゲームエンジンUnreal Engineを開発するEpic Gamesの株式を、2024年に15億ドル分取得して出資しています。これにより、自社のIPをさらに収益化する手段として、DisneyとFortniteのコミュニティを結びつけることを構想しており、リアルとデジタルの両分野を強化する戦略を推進すると発表しています。


また、脳のモニタリングデバイスを開発するKernelのCEOであるBryan Johnson氏も、基調講演に登壇しました。同氏は長寿や健康の熱心な支持者であり、フードーム・シーケンシング(Foodome Sequencing)という新たなイニシアチブを提唱しています。この取り組みは、食品の分子構造を詳細に解析し、その健康への影響を明らかにすることを目的としたものです。彼は、できるだけ多くの食品を検査し、重金属やマイクロプラスチックなどの有害物質が含まれているかを明らかにするパブリックなデータベースを構築しようとしています。この取り組みを通じて、食品関連企業に対し、より安全な食品の提供を促すことを狙っています。


他にも、IBMのCEOであるArvind Krishana氏は、基調講演でAIと量子コンピューティングの未来について語りました。同氏は、「今後4年以内に、量子コンピューターが何を成し遂げるのかに驚くことになる」と述べ、量子コンピューターが大きな影響をもたらす分野として、「二酸化炭素の回収・貯蔵」、「新素材の発見」、「価格モデルの最適化」、「栄養学」、「ビジネスの最適化」を挙げています。また、Krishana氏は、「AIは私たちの既存の知識から学ぶ。しかし、量子コンピューターは、これまで知られていなかったことを解き明かすことができる。」として、AIと量子コンピューターが補完し合う関係にあると説明しました。その具体例として、IBMのQuantum Algorithm Engineering部門のグローバルマネージャーであるPedro Rivero氏は、量子コンピューターと従来のコンピューターを組み合わせて「鉄硫化物」(Iron Sulfide)のシミュレーションに成功した事例を紹介しています。この分子は「生命のゆりかご」とも呼ばれ、生命の起源に関わる重要な研究対象とされています。


このような大きなトレンドの中で、2025年のSXSWでは、数多くのスタートアップや企業がユニークな技術やサービスを披露しました。ここでは、特に興味深い5社を紹介したいと思います。


Polygraf AIは、Zero Trustというフレームワークを基盤としたAIネイティブなデータインテグリティ、モニタリング、ガバナンスのソリューションを提供。AIの進化に伴い、機密データの漏洩、データ侵害、AI生成コンテンツの改ざんや偽情報といった新たなリスクが増加する中で、同社は、独自のエージェント型AIソリューションを活用し、データ主導の組織がこれらの脅威を特定、監視、軽減できるよう支援している。



Glidanceは、Glideと呼ばれる視覚障がい者や弱視の人をガイドするモビリティー支援デバイスを開発。同製品は、白杖や盲導犬の代替策であり、ユーザーがデバイスを軽く前方に押すことで進行し、AIがリアルタイムで周囲の状況を把握しながら安全な経路を提供してくれる。​また、触覚フィードバックや音声ガイドも兼ね備えており、ユーザーは障害物を回避しながら、ドアやエレベーターを見つけ、安全に目的地まで到達することができる。


Colossal Biosciences(https://colossal.com/)

Colossal Biosciencesは、絶滅したマンモスやタスマニアタイガーを遺伝子工学によって復活させようとしているバイオテクノロジー企業。同社は、ケナガマンモスの特徴を持つマウスを遺伝子編集によって作り出すことに成功しており、実験室で生まれたこれらのマウスは、ふさふさとした長い毛と黄金色の毛皮を持つように改変されている。最終的には、アジアゾウに遺伝子編集を施し、絶滅したマンモスの姿に近づけることを目指しているが、この技術は生態系の再生や医療分野への応用も期待されている。


Xatomsは、AIと量子化学を活用して水の浄化を目指すスタートアップ。同社は、AIアルゴリズムを用いて特定の水質汚染物質に対応する光触媒分子の候補を迅速に特定・検証し、AI分析から得られた洞察を基に、量子化学を適用して光触媒材料を設計・合成する。そして、粉末状の光触媒を製造し、太陽光の力を利用して有害な汚染物質を分解することで、清潔で安全な飲料水の提供を実現しようとしている。


SXSWは、CESのような他のイベントやカンファレンスとは異なり、オースティンのダウンタウン全体が会場となるのが特徴です。夕方以降には各会場で音楽イベントがスタートし、多くの参加者がまるでお祭りのような雰囲気の中でイベントを楽しんでいます。これは、SXSWがオースティンのプロモーションスローガンである “Keep Austin Weird”(風変わりなままでいようという、オースティンの独自性や自由な発想を体現する言葉)を象徴する存在であるように感じられます。前回のSeattle Watchでは、AI都市であるシアトルの現状を紹介しましたが、都市ごとに異なる文化が根付き、それぞれユニークなエコシステムが形成されているのが、米国という国の多様性であり、強さの源泉のように感じます。

 
 
 

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