今回のSeattle Watchでは、AI都市としてのシアトルの現状について掘り下げていきます。AIエンジニアが集積するシアトルは、今後もAI市場をリードしていくと予測されています。また、レイターステージのスタートアップやディープテック企業にとっても魅力的な環境であり、さらに女性起業家にもフレンドリーな都市として評価されています。
シアトルは、AIエンジニアが多い都市として知られています。CBREのレポートによると、AI関連のテック人材が最も集中している都市は、サンフランシスコ・ベイエリア(61,497件)、シアトル(35,107件)、ニューヨーク(27,591件)の3都市であり、米国のAI関連のテック人材(285,235件)の44%を占めています。なお、カナダでは、トロント、バンクーバー、モントリオールが主要なAI市場であり、国内のAI関連技術職(41,374件)の60%を占めています。
シアトルにAI人材が集中しているのは、MicrosoftやAmazonといった大手テック企業の本社があり、彼らがAIや機械学習に多大の投資を行っているためです。そのため、シアトルのAIエンジニアの多くは、AzureやAWSといったクラウドサービスやエンタープライズ向けのソリューション開発に携わっており、安定した環境でAI技術を深めています。
また、Microsoftの共同創業者である故Paul Allen氏が立ち上げたAllen Institute for AI(AI2)もシアトルのAIエコシステムを支えています。同団体は非営利のAI研究機関であり、他のAI企業と比べると知名度はあまり高くありませんが、オープンソースへの取り組みとして2024年には111のAIモデルを開発・公開し、その訓練データ、コード、モデルの重み付けなどを外部の研究者や開発者に提供しています。また、シアトルのFred Hutch Cancer CenterらとCancer AI Allianceを立ち上げ、がん研究分野でのAI活用を強化しています。同組織には日本人サイエンティストも在籍しており、AI以外の様々な研究に携わっています。
さらに、ストックフォト大手のGetty Imagesもシアトルに本社を置く企業です。同社は、Midjourneyなどの画像生成AIツールが脅威となる中で、AI時代に向けたストックフォト企業として生き残るために、競合であるShutterstockとの合併統合を2025年1月に発表しています。統合後の企業価値は約37億ドルになります。
AI分野では市場を牽引しているシアトルですが、スタートアップエコシステムという観点では他都市に後れを取っています。Startup Genomeのレポートによると、2024年のスタートアップエコシステム世界ランキングでシリコンバレーが1位、ロンドン、ニューヨーク、テルアビブ、ロサンゼルスが同率2位にランクインする中、シアトルは20位に留まっています。このランキングでのシアトルの停滞には、主要スタートアップのエグジット(M&AやIPO)件数やシリーズAの資金調達の減少が影響を及ぼしています。シアトルのスタートアップのシリーズAの資金調達は、2022年には53件で米国6位でしたが、2023年には25件に減少し、米国内で10位に後退しました。
しかし、この結果はシアトルのエコシステム全体が衰退していることを示しているわけではありません。特にシリーズB以降のレイターステージの資金調達は堅調で、2023年には49件のレイターステージの資金調達があり、米国で5位にランクインしています。例えば、5G技術を開発するPivotal Commwareや再利用可能なロケットを開発するStoke Spaceなどの企業は、2023年に1億ドル規模の資金調達を達成しており、シアトルがスケール可能なディープテックのスタートアップを生み出せることを証明しています。
そういった中で、先日3月12日には、世界最大級のアクセラレーター/VCであるPlug & Playのシアトル進出を祝うセレモニーが開催されました。多くの投資家、スタートアップ企業、そしてファンドのパートナーであるSBI HoldingsとSNBL(新日本科学)の幹部、University of Washingtonの学長、シアトル市の市長が集まり、AI都市シアトルの魅力とエコシステムの成長、そしてAGIやVertical AIの可能性などをテーマにした講演が行われました。同ファンドは、SBI US Gateway Fundと呼ばれる4,000万ドルのファンドで、AI、Advanced Manufacturing、Climate Tech、Supply Chainなどに加えて、バイオテクノロジーおよび創薬関連を含むHealthcareなど、幅広い領域のアーリーステージの北米スタートアップを投資対象としています。
また、シアトルは長年にわたり女性起業家にとって全米で最も適した都市としても知られています。Fundera by Nerdwalletの調査によると、シアトルの自営業者(Self-Employed)の43.8%が女性であること、男性と女性のビジネスオーナー間の収益格差がわずか6%であり、女性が活躍しやすい環境と言われています。Swizzle Venturesは女性の健康と経済的成功を支援するスタートアップに特化したシアトルのVCであり、同社のパートナーであるJessica Kamada氏は、女性のヘルスケアに対する現在の政治な不確実性(例:人工妊娠中絶をめぐる議論)やDEIへの反発が、新たなイノベーションの機運を高めていると指摘しています。Swizzleは、Trellis Health(妊娠管理プラットフォーム)、Mavida Health(妊産婦のメンタルヘルスケア)、Alinea(Z世代女性向けのAI投資管理プラットフォーム)を含む10社にすでに投資しています。
もう数カ月するとシアトルにも暖かい季節が訪れます。ぜひ、シアトルのテックシーンを実際に体験していただき、自社のビジネスの成長や、日本の都市や産業エコシステムの発展につながる学びを持ち帰っていただければと思います。皆さまとシアトルでお会いできるのを楽しみにしております。
Webrain Production Team
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