いつも Seattle Watch をご愛読いただき、誠にありがとうございます。今回は2024年の締めくくりとなる号を発行します。今年は、通常のリトリートトレーニングに加え、グローバルセールスに欠かせないスキルやマインドを実践的に磨く Global Sales Bootcamp を初開催しました。また、北米市場でのプレゼンス拡大を目指したマーケティングの伴走支援プログラムなど、新たな挑戦にも取り組みました。来年も、シアトルの投資家や専門家ネットワークを最大限に活用し、皆さまのビジネスに直結するアクショナブルで洗練されたインテリジェンスと、それを支えるトレーニングプログラムをさらに進化させてお届けします。どうぞご期待ください。
今回は、2024年にお届けした Seattle Watch のハイライトを通じて、今年台頭したビジネストレンドやテクノロジー、Webrainの活動を振り返りたいと思います。各記事の全文はタイトルリンクからご覧いただけますので、見逃した内容があればぜひチェックしてみてください。また、後半では2025年のテックトレンド予測もいくつかご紹介しています。
2024年のSeattle Watchハイライト
フードテックは日々成長を続けています。民間調査会社のStatistaによると、2022年のフードテックの世界市場規模は2,607億7千万ドルであり、2028年までに3,600億米ドルを超えると予測されています。10月末に「Smart Kitchen Summit Japan」が開催されるなど、日本でも関心が高まっており、世界各地で食のイノベーション・ハブが誕生しつつあります。例えば、スペインのBasque Culinary Center(BCC)、米国のMISTA、Culinary Institute of America、Kitchen Townなどが注目を集めています。フードテックは、生産から消費(Farm to Table)、そして一人ひとりの健康に至るまで幅広い領域にまたがっており、ホリスティック(包括的)な視点で市場を俯瞰して見ることがより一層重要になってきています。
生物多様性は、人類社会と経済にとって不可欠な存在です。世界経済フォーラム(WEF)によれば、世界のGDPの約半分、すなわち44兆ドル相当の経済活動が、自然およびそのサービスに中程度から大部分依存していると報告されています。こうした生物多様性への関心の高まりを受け、Webrainは「Biodiversity and Nature Positive: Nature Tech for a Better Planet」というタイトルのレポートを発行し、Nature Positiveや30by30、TNFDといった重要なイニシアチブを紹介しています。さらに、生物多様性の回復と保存を支援する「Nature Tech」と呼ばれる技術の進展にも注目が集まっています。本レポートでは、これらの技術を、「生物多様性モニタリング」、「インパクトとリスクの評価」、「保全と再生」、「ネイチャー・ファイナンス」の4つのカテゴリーに分類し、主要なスタートアップを紹介しています。生物多様性の問題は、あらゆる産業の企業にとって重要なテーマであり、企業全体の持続可能な成長を実現するためには、生物多様性を戦略的に捉え、積極的に取り組むことがこれまで以上に重要となっていくでしょう。
スタートアップへの投資が世界的に低迷を続ける中、コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)による投資は活発化しています。CB Insightsによれば、2024年第二四半期におけるCVCを通じた資金調達総額は156億ドル(約2兆3,000億円)に達し、1回の調達額が1億ドル以上のメガラウンドが全体の54%を占めました。この動きを牽引しているのはAI関連スタートアップで、Scale AI、Wiz、AlphaSense、Mistral AI、Cohereといった企業がその代表例です。日本でもヤマハが米国シリコンバレーでCVC設立などCVCの活動が活発になってきていますが、不景気になると活動を縮小または撤退してしまうケースも少なくありません。一方、Salesforce Ventures(セールステック)、Airbus Ventures(航空宇宙・クリーンテック)、Novartis Venture Fund(創薬)といったCVCは、成功モデルとして注目されています。CVCを単なるオープン・イノベーションツールとして位置付けるだけでなく、投資活動の中から未来の技術や市場の流れを察知し、勝ち残りそうな会社を育成し、本体に取り込むことで経営に活かすという両利きの経営のツールとして活かせるかどうかが、今後の持続的な成功の鍵となるでしょう。
イーロン・マスクやピーター・ティールに代表されるテック富裕層の間には、一種の哲学ともいえる思想がいくつか存在します。その代表的なものとして、テクノロジーを規制せず技術進歩を無制限に加速させるべきだとする「効果的加速主義(e/acc: effective accelerationism)」があります。また、哲学者のエミール・トーレス氏と元GoogleのAI研究者ティムニット・ゲブル氏は、「TESCREAL(テスクリアル)」という造語を提唱しています。これは、トランスヒューマニズム(Transhumanism)、エクストロピアニズム(Extropianism)、シンギュラリタリアニズム(Singularitarianism)、宇宙主義(Cosmicism)、合理主義(Rationalism)、効果的利他主義(Effective Altruism)、長期主義(Longtermism)という7つの相互に関連し合うイデオロギーの集合体を指します。イーロン・マスクが第2期トランプ政権において政府効率化省(DOGE)のトップに指名された事例からも分かるように、テック富裕層は政治への積極的な関与を進めており、彼らの思想やイデオロギーは、今後さらにその影響力を強めていくと予測されます。
新プログラム Global Sales Boot Camp を初開催しました。本プログラムは、海外事業の営業力をアメリカで試し、グローバルでの成功に欠かせないマインドとスキルを実践的に磨くことを目的としています。参加者は、今のアメリカにおけるセールス・マーケティングのリアリティを体感できる多彩な実践セッションに取り組みました。例えば、LinkedInを活用したソーシャルセリング、見込み客の潜在的な課題やニーズを引き出すためのSPIN話法、データドリブンのデマンドジェネレーションを支えるセールステック、そしてABM(Account Based Marketing)の最前線を学んでいただきました。さらに、ターゲット企業との商談に向けた営業プレゼン資料のブラッシュアップやセールスピッチの練習を通じて、日本で培った営業経験やスキルをアンラーニング(学びほぐし)し、異なる商習慣や文化に適応する力を身につけて頂きました。来年度も同様のプログラムを企画しております。
2025年のテックトレンド予測
Gartnerは、「2025年の戦略的テクノロジーのトップトレンド」を10つ発表しています。詳細は同社のレポートをご覧いただければと思いますが、Webrainが特に興味深いと思った5つを下記に抜粋します。
エージェント型AI (Agentic AI):エージェント型AIは、ユーザーが設定した目標を達成するために自律的に計画を策定し、行動を起こす。これは、人間の作業負荷を軽減し、仕事を補強できる仮想労働力となる。Gartnerでは、2028年までに日常業務における意思決定のうちの少なくとも15%がエージェント型AIによって自律的に行われるようになると予測している。
偽情報セキュリティ (Disinformation Security):偽情報セキュリティは、情報の信頼を体系的に見極め、完全性の確保、真正性の評価、なりすましの防止、拡散する有害情報の追跡のための方法論体系を提供することを目的としたテクノロジーである。Gartnerでは、2028年までに企業の50%が偽情報セキュリティ対応のユースケースに特化したプロダクト、サービス、または機能の採用を開始すると予測している。
環境に溶け込むインテリジェンス (Ambient Invisible Intelligence):環境に溶け込むインテリジェンスは、超低コストの小型スマート・タグとセンサーによって実現される。長期的には、環境に溶け込むインテリジェンスによって、日常生活にセンシングとインテリジェンスがより深く統合されるようになる。2027年末までの初期導入例には、小売店の在庫チェックや生鮮品の物流などが含まれる。
エネルギー効率の高いコンピューティング (Energy-Efficient computing): 2024年には大半のIT組織が自社の二酸化炭素排出量を最も重視するようになっている。AIトレーニング、シミュレーション、最適化、メディア・レンダリングなどはエネルギーを大量消費するため、組織の二酸化炭素排出量の最大要因になり得る。2020年代後半から、光学、ニューロモルフィック、新型アクセラレータなど、消費エネルギーが大幅に少ない新たなコンピューティング・テクノロジが登場すると予想されている。
神経系の拡張 (Neurological Enhancement):神経系の拡張は、脳の活動を読み取り解読するテクノロジーを利用して、人間の認知能力を向上させる。神経系の拡張は、AIに適応するための人間のスキル向上、次世代マーケティング、人間のパフォーマンスの根本的な向上という3つの主要領域において可能性を秘めている。Gartnerでは、2030年までにナレッジ・ワーカーの30%は、AIが台頭する職場での存在意義を保つために、BMI(Brain Machine Interface)などのテクノロジーによって強化され、依存するようになると予測している。
また、AmazonのCTOであるワーナー・ヴォゲルス氏は、「今後数年間で、ポジティブなインパクトのためにテクノロジーを活用することは単に可能になるだけでなく、成功についての考え方を再定義することになるだろう。」と述べ、2025年以降のテクノロジーについて次の5つの予測を発表しています。
明日の労働力は使命感に燃えている:明日の労働力は、経済的な成功やキャリアアップだけでなく、世界にポジティブな変化を起こしたいという深い欲求によって動かされるだろう。このシフトを認め、目的主導型(Purpose Driven)の仕事を受け入れる組織や企業は、長期的な成功を収めることができるだろう。
エネルギー効率の新時代がイノベーションを促進する:急増する電力需要と気候変動への対応という要請が、エネルギーの生成・貯蔵・消費方法の変革を促している。原子力の拡大と再生可能エネルギーの継続的な成長は、エネルギー・インフラが制約ではなく、イノベーションの触媒となる未来への基礎を築く。
テクノロジーは真実の発見において天秤を傾ける:偽情報がかつてない速さで拡散するなか、AIを搭載したツールの新たな波が到来し、ジャーナリスト、研究者、そして真実を探求する市民を力づけるだろう。この技術革命は、調査能力を民主化し、事実確認を加速させ、誤った情報の拡散とその否定とのギャップを埋め始めるだろう。
オープンデータが分散型災害対策を推進:災害レジリエンスは、ローカルコミュニティが提供するデータの力によって根本的に変化する。この転換により、災害管理はトップダウンの事後対応型モデルから、事前対応型、分散型、コミュニティ主導型モデルへと再定義される。
意図主導型の消費者テクノロジーの定着:消費者向けテクノロジーと私たちの関係を再定義する、かすかな変化が起き始めている。注意散漫な状態から逃れたいと考える人が増えるなか、つかの間の刺激を与えてくれるデバイスよりも、マインドフルネス、志向性、深い思考を促すデバイスが登場しつつある。2025年以降、テクノロジーは私たちの気をそらすのではなく、むしろ力を与えてくれるだろう。
さらに、昨今注目を集めているAGI(汎用人工知能:人間のような汎用的な知能を持つ人工知能)の実現について、OpenAIのCEOであるサム・アルトマン氏は、2025年にAGIが実現する可能性が高いと述べており、AnthropicのCEOであるダリオ・アモデイ氏も、「現在の人工知能はPhDレベルに達しつつあり、昨年は学士レベル、一昨年は高校生レベルだった。」と述べ、「この能力の増加速度を見れば、2026年か2027年にはAGIに到達すると考えられる」と続けています。AI研究者のAndrew Ng氏が、「AIは新しい時代の電気である。」と述べるように、AIはもはや特別な技術ではなく、私たちの仕事や生活を支えるインフラの一部となりつつあります。この変革を恐れず、積極的に活用し、変化に対応することが、これからの成功への鍵となるでしょう。その第一歩はこれらの変化を実感することであり、実際にテクノロジーに触れて自分で試してみることが最も効果的だと思います。
Webrainも、このダイナミックな変化に乗り遅れることなく、これまでにない形でのサービスやプログラムを皆さまにご提供できるように、日々革新を追求していきます。2025年も皆さまにとって素晴らしい一年になることを心より願っております。それでは、少し早いですが、どうぞ良いお年をお迎えください。
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