今回のSeattle Watchでは、自家用車の所有・運転離れが進む中でのUberやLyftといったライドシェアサービスの現状と、Teslaが最近発表した自動タクシーであるCybercabやJoby Aviationの空飛ぶタクシーといった未来のモビリティについて紹介していきます。
ディスラプティブ(破壊的)という言葉は、テック業界では、既存の産業に大きな影響を与える可能性のある新製品やサービスを表す言葉としてよく使われています。過去十年を振り返っても、UberやLyftといったライドシェアサービスの革新さは際立っており、タクシー業界にディスラプティブな影響を与えた例と言えるでしょう。
Uberは2010年初頭に創業し、数カ所のテスト市場でオペレーションをしていました。しかし、瞬く間にアメリカ全土に広がり、今や世界70カ国、1万都市にまで拡大し、1億4,900万人の顧客と710万人のドライバーを抱える巨大なプラットフォームに成長しています。2023年の同社サービスの利用総額は689億ドルに到達し、業界2位のLyftも2023年には44億ドルを計上しています。
ライドシェアサービスは、ギグ・エコノミーという新しい雇用形態を生み出し、長年続いてきたタクシービジネスに衝撃を与えました。ニューヨーク市の公的機関であるTaxi and Limousine Commissionによると、2015年のニューヨーク市ではタクシーが市場の90%近くを占めていましたが、2023年には20%以下にまで落ち込んでいます。興味深いことに、この影響はさらに広範囲に及んでいるのです。1983年には、18歳の80.4%が運転免許を持っていましたが、2021年には59.7%に低下し、2024年には40%以下にまで減少しています。つまり、ライドシェアサービスの登場によって、多くの若者が自分で車を所有しなくなり、同時に運転することへの熱意も落としたのです。代わりにアプリを使って、必要な場所へと移動するような行動様式が生まれたのです。
市場への普及度合いを考えると、ライドシェアサービスは安定した確立されたビジネスモデルであると考えられているかもしれません。しかし、現実はまったく違います。創業以来、Uberとその関連企業は、労働法に関する問題をめぐって、地方自治体と絶え間ない争いを繰り広げています。その根底にあるのは、ライドシェアサービスを担うドライバーが独立した請負業者なのか、それとも従業員なのかという問題です。この業界では、ドライバーは独立した請負業者であるという前提で成り立ていますが、多くの地方自治体は、ドライバーは従業員とみなされるためのほとんどの要件に満たしているとして、これに異議を唱えています。
ライドシェアサービスを運営する企業が、ドライバーを請負業者に分類することを強く支持してきた理由は主に金銭面にあります。ドライバーを従業員とみなした場合、企業は最低賃金法(多くの州で最低賃金が引き上げられつつある)を守り、健康保険などの福利厚生を提供し、毎週安定した労働時間を与えなければなりません。一方で、請負業者の場合は、ライドシェア収入の一部をドライバーに支払うだけで、福利厚生は一切提供されず、週の労働時間を保証する必要もありません。ただ、従業員であることで得られる高い給与と福利厚生を好むドライバーが多い一方で、請負業者としてよりカジュアルでフレキシブルな働きかたを好むドライバーもいることにも留意すべきです。
この問題を複雑にしているのは包括的な連邦法が存在しないことで、州や市が独自の規制を設けることになっています。その結果、企業は常に各市場の状況を把握して、それに適応しなければならず、自分たちが理想とするビジネスモデルを支持してもらえるように議員に働きかける必要もあります。この現状は時に大きな衝突につながります。
2016年、テキサス州オースティン市では、タクシー運転手にすでに義務付けられている指紋の採取を、ライドシェアのドライバーにも義務付ける条例を制定しています。これは、ライドシェアサービスのドライバーが乗客に性的暴行を加えたという数件の報告を受けてのことでした。この条例に反対するUberとLyftはオースティン市でのサービスを一時停止していましたが、その1年後に、彼らは州議会に働きかけて指紋採取の要件を覆す法案を可決させることに成功しています。これにより、ライドシェア事業者がいかに大きな政治力を得ているかが明らかになりました。https://www.govtech.com/transportation/what-happens-when-uber-and-lyft-leave-a-city
UberやLyftはその後数年間にわたって、ミネソタ州、ペンシルベニア州、マサチューセッツ州など他の州でも州政府と対立しましたが、最大の戦場はカリフォルニア州でした。2020年11月、「アプリベースのドライバーとサービスを保護する法・提案22(Protect App-Based Drivers and Services Act, Proposition 22)の導入をめぐる住民投票が行われました。これはドライバーを請負業者として分類することを制定した法案で、Uber、Lyft、宅配サービスのDoorDashなどの企業が2億ドルを投じて大量の広告を出し、住民に賛成を訴えました。結果、同議案は可決されてドライバーは請負業者として分類されることになりました。この決定の合憲性はすぐに争われ、3年を超える法廷闘争に発展しましたが、2024年夏にカリフォルニア州最高裁判所は同議案を支持し、この論争に終止符が打たれたのです。
この論争が収束したからといって、この業界にこれ以上の変化が起きないとは限りません。過去の法的紛争の大半は人間のドライバーの地位が中心でしたが、もし人間のドライバーが不要になったらどうなるのでしょうか?
10月初旬に、Teslaはハンドルもペダルもない完全自律走行車「Cybercab」を発表しています。同社は3万ドルのCybercabのユニークなビジネスモデルを推進しています。それは、一般消費者がCybercabを個人所有の車として購入して、使用しないときはレンタルするというモデルです。一般的な個人所有の車は、その寿命のほとんどを使用されずに過ごすため、その遊休時間を有効活用し、所有者が収入を得られるようにすることを目的としています。Teslaは、Cybercabを2027年までに生産開始すると発表していますが、このスケジュールはかなり楽観的なものでしょう。実際、同社は2019年に「1年以内に100万台以上のロボタクシーを走らせる」と発表していましたが、その計画はまだ実現していません。
興味深いことに、SFの世界から飛び出してきたような乗り物が、Cybercabを抑えて市場に登場する可能性もあります。空飛ぶタクシー(大型ドローン)は目覚ましい成長を遂げており、ニューヨークやドバイなどの市場にまもなく登場すると言われています。150社以上の企業がこの技術に取り組んでおり、地方自治体は域内での運行方法についての計画を立案し始めています。例えば、イギリスの運輸省は2年以内にロンドンで空飛ぶタクシーが運行されることを想定し、「Future of Flight」という行動計画を策定しています。特に注目を集めている企業が、Joby Aviationです。同社が開発している4人乗りタクシーは、電気モーターで駆動する6つのプロペラを使用し、1回の充電で100マイル走行が可能です。当初は人間がパイロットを務めますが、最終的には完全な自律走行が可能になると予想されています。
今回のSeattle Watchで取り上げた中で、注目すべき変化は、自家用車の所有・運転離れの傾向でしょう。Z世代は今後の経済主体としてますます大きな役割を果たすことになり、彼らの嗜好や行動は、自動車産業に関する様々なものを根底から覆す可能性があります。今後10年から20年の間に、「あなたの企業にディスラプティブな影響をもたらすものは何か?」、「その大きな変化をビジネスの成長機会として利用するために今から何をすべきか?」という問いを自ら立てて、今後の方向について考え始めてはいかがでしょうか?
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