Webrainでは「Biodiversity and Nature Positive: Nature Tech for a Better Planet」というタイトルで、生物多様性とネイチャーテックについてレポートをまとめています。今回はその一部を抜粋して、生物多様性の回復や保全に資するテクノロジーについて紹介をしていきます。
生物多様性*は、人類社会と経済にとって不可欠な存在です。世界経済フォーラム(WEF)によると、世界のGDPの約半分、つまり44兆ドルに相当する経済活動とその価値が、自然やそのサービスに、中程度から大部分依存をしていると伝えています。すでに人間の経済活動は、地球の生態系に深刻な影響を及ぼしてきており、WEFは、生物多様性の損失や生態系の崩壊を今後10年間で人類にとって最大の脅威のひとつとして警鐘を鳴らしています。実際、エコロジストのGerardo Ceballos氏が米国科学アカデミーに投稿した研究では、動物種の絶滅速度が過去100万年間の歴史的な基準の35倍に達していることが示されています。同氏は、この現象における人間の影響を強調し、「人間がいなければ、過去500年で失われた動物種は、絶滅するまでに約1万8,000年かかっただろう」と述べています。
*生物多様性:様々な生きものが、異なる環境で自分たちの生きる場所を見つけ、互いに違いを活かしながら、つながり調和していること。生物多様性条約では、「生態系の多様性」、「種内(遺伝子)の多様性」、「種間の多様性」という3つのレベルで多様性があるとしてる。
生物多様性の損失は、企業にさまざまなビジネスリスクをもたらしています。Boston Consulting Groupは、サプライチェーンの破壊によるコスト増加、生物多様性保全に伴う政府規制によるコスト、そして生物多様性を無視した経済活動による顧客や株主からの信頼喪失の3つを指摘しています。一方、WEFでは自然を保護し生物多様性を高めることで、年間10兆ドル相当のビジネス機会が生まれ、4億人近い新規雇用が創出される可能性があるとも報告しています。これらの事実は、企業が生物多様性の回復や維持に積極的に取り組むべき理由を強く示しています。
このような生物多様性への関心の高まりの中で、Webrainでは、「Biodiversity and Nature Positive: Nature Tech for a Better Planet」というタイトルのレポートを発行しており、特に抑えておくべき世界的なイニシアチブについて紹介しています。今回はその一部を紹介したいと思います。
Nature Positive:自然保護団体、研究機関、企業、金融機関などが一体となり、「自然を回復軌道に乗せるため、生物多様性の損失を止め、反転させる」という世界的なイニチアチブ。2020年をベースラインとして、2030年までに生物多様性の損失を停止させて回復軌道に乗せ、さらに2050年までには生物多様性を完全に回復させて、自然共生社会を実現することを目指している。https://4783129.fs1.hubspotusercontent-na1.net/hubfs/4783129/The Definition of Nature Positive.pdf
30by30:2030年までに地球の陸と海それぞれの30%の面積を保全するという目標。30by30では、Nature Positiveの達成には、自然が適切に保全されている場所を一定面積以上、維持することが必要であるという考え方に基づいており、国立公園などの保護地域の拡充・管理と、保護地域以外の場所で生物多様性の保全に貢献する場所としてのOECM(Other Effective area-based Conservation Measures)の認定が活動の柱となっている。https://class-earth.com/en/journal/30_by_30/
TNFD:自然関連財務情報開示タスクフォース(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures)の略。企業や金融機関が自然資本や生物多様性に関するリスクや機会を適切に評価・開示するためのフレームワークを確立することを目的とした国際的な組織で、2023年9月18日に最終提言(v1.0)を公表している。https://www.unepfi.org/themes/ecosystems/tnfd-launch/
生物多様性の問題を解決する上で、テクノロジーは非常に大きな役割を担っており、Nature Techと呼ばれる生物多様性の回復・保存に資する技術が高まりを見せています。実際、PwCでは、Nature Techへの投資は2022年に20億ドルに達したと推定しており、2018 年以降でも年平均成長率52%で成長していると報告しています。私たちのレポートでは、このNature Techを、次の4カテゴリーに分けて紹介しています。
生物多様性モニタリング:生物多様性を観察、測定、分析するためのさまざまなツールや手法を提供するプレイヤー。その中には、eDNAシーケンス(土壌、水、空気などの環境サンプルを採取し、その中のDNAを抽出・分析することで、さまざまな生物種の存在を特定する)を活用したプレイヤーもいる。
インパクトとリスクの評価:企業の事業活動がもたらす生態系へのインパクトや生物多様性に関するリスクを評価し、それらに適切に対応したり、ステークホルダーに報告したりするために必要なデータや分析ツールを提供するプレイヤー。これらのツールを活用することで、企業はTNFDのような枠組みにも準拠することができる。
保全と再生:森林、海洋、陸地の生態系の回復と再生に取り取り組むプレイヤー。これらには、植林や再生農業を直接支援したり、これらのプロジェクトを間接的に支援したりするプラットフォーマーが含まれる。
ネイチャー・ファイナンス:テクノロジーを使って自然の価値を定量化し、それを取引可能な資産とすることで、自然資本の価値を高めているプレイヤー。自然資本に収益性をもたせることで、生物多様性を向上させる活動にインセンティブを与えることができる。
生物多様性の問題は、あらゆる産業に属する企業にとって重要なテーマであり、今後は気候変動への取り組みと同様に、強いコミットメントが求められると予測されます。その際、生物多様性を企業全体の持続可能な成長の要素として捉えることが、さらに重要になってくるでしょう。これは、生物多様性をビジネス機会とするだけでなく、従業員へのメリットとしても活用することを意味します。例えば、生物多様性に関する事業や活動は、従業員の自社や仕事に対する誇りやモチベーションを高め、ストレス軽減やメンタルヘルスの改善につなげることができます。また、生物多様性保全の活動は長期的な視点が求められるため、短期的な成果だけでなく、長期的な影響を考慮する思考を養うことにも役立つかもしれません。
本レポートの詳細について知りたい方は、弊社までご連絡ください。
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