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Hideya Tanaka

SW 213 - Disaster Tech

今年1月1日に発生した能登半島地震と、8月8日に発生した宮崎県東部海域を震源とする地震に伴う南海トラフ地震臨時情報が示すように、自然災害に関連するリスクが高まっています。今回のSeattle Watchでは、世界の自然災害の現状と防災に関連する技術について紹介していきます。


 

日本は「災害大国」と呼ばれていますが、自然災害リスクやそれに伴う経済損失の問題は世界的に深刻化しています。UNDRR(国連防災機関)が2020年に発行した報告書によると、2000年から2019年に記録された大規模災害は7,348件にのぼり、123万人が命を落とし、42億人が被害を受けています。その結果、世界の経済損失は約2兆9,700億ドルに達しています。この数字は過去20年間(1980-1999年)と比べて急増しています。大規模な自然災害の増加の背景には、気候変動による異常気象が含まれ、特に水害や暴風雨などの気候関連災害が、1980年~1999年の3,656件から2000年~2019年には6,681件に増加しています。


こうした自然災害リスクの高まりを受けて、2015年に第3回国連防災世界会議で採択された「仙台防災枠組」は、2030年までの国際的な防災指針として以下の4つの優先行動を設定しています。

  1. 災害リスクの理解

  2. 災害リスクを管理するガバナンスの強化

  3. 強靱性のための災害リスク削減への投資

  4. 効果的な災害対応への備えと、復旧復興過程における「より良い復興(Build Back Better)」


防災への関心は世界的に高まっています。JICA上席国際専門員の竹谷公男氏は「1ユーロの予防防災投資が4〜7ユーロの災害コスト回避に匹敵する」と述べており、各国で災害のリスクを低減する取り組みが進んでいます。民間調査会社のPrecedence Researchによると、災害対策システムの世界市場規模は2020年に146億ドルに達し、同市場は年間平均成長率7.4%で成長し、2030年には298億ドルに達すると予測しています。


国内外ではDisaster Tech(防災テック)のスタートアップが台頭しています。ここでは、災害発生前、発生時、発生後において災害対応の製品やソリューションを提供している企業を紹介していきます。


One Concernは、自然災害や気候変動が電力網や交通網などのインフラに与える影響を可視化するツールを開発している。同社の「One Concern Domino」は企業や自治体向けのレジリエンス分析ツールで、デジタルツインを用いてインフラへのハザード影響を調査することで、災害時に機能停止するアセットを特定し、ダウンタイムを可視化できる。また「One Concern DNA」は、ユーザーが保有するアセットのレジリエンスを評価して、リスクの軽減や移転に向けた計画を立てることを支援している。


Previsicoは、先進的な予測技術を用いて洪水の影響を軽減することに特化した企業である。同社は、英国のラフバラー大学からスピンアウトして設立されており、FloodMapLiveと呼ばれる洪水モデリングソフトウェアは、ビッグデータを活用することでプロパティレベルの洪水のリアルタイム予測を可能にし、正確な洪水警報を提供している。Previsicoは保険会社、インフラ企業、地方自治体など多様な顧客にサービスを提供し、200を超える顧客が洪水リスクを効果的に管理・削減するのを支援している。


Carbyneは、緊急通報情報処理プラットフォームを提供するスタートアップである。同社の製品では、アプリではなく通常の緊急回線を通じてリアルタイムのビデオ送信や位置情報の特定が可能で、大規模災害時で通信ネットワークが不安定な際にも、電話をしている人が誰で、どこにいて何が起きているのか、何が必要なのかという情報を、全てビジュアルで伝達できる。Carbyneは、世界6カ国以上で展開しており、1日に約100万件の通話を処理している。


Specteeは、防災や災害対応に特化した情報プラットフォームを提供する企業である。同社の製品は、AIを活用することでSNS投稿、気象データ、道路/河川カメラからの情報をリアルタイムで収集・分析し、災害に関する正確な情報をすぐに通知してくれる。また、気象や交通状況に関連する今後起こりうるリスクを予測可能で、自治体や企業はこれらの情報をBCP対策や防災対策・災害対策に役立てることができる。


Scale Microgrid Solutions (https://www.scalemicrogrids.com/)

Scale Microgrid Solutionsは、再生可能エネルギーを活用したマイクログリッドシステムを提供している。同システムは、ソーラーパネル、バッテリー、バックアップ用のガス発電機、制御装置を1つのコンテナに収めたモジュール式で、迅速かつ低コストで分散型電力ネットワークを構築できる。公共施設や商業施設での利用を想定しており、自然災害による大規模停電時には事業継続や周辺地域への電力供給を可能にし、災害時のレジリエンスを強化する。また、平時には冷暖房の電力供給や電力消費がピークになる際の補助電源としても活用できる。


日本は防災インフラの整備や防災教育で世界に発信できる力を持っていますが、避難所の整備に関しては他国に比べて遅れています。日本の避難所は主に学校の体育館が利用されており、快適な睡眠環境が整っていないこと、トイレ、調理施設、入浴施設、空調設備が整っていないことが問題視されています。NHKの調査では、2016年4月の熊本地震では、災害関連死(災害後の避難生活や心身のストレスで間接的に亡くなること)のうち45%が避難所や車中泊による避難生活のストレスによるものであったと報告しています。


対照的に、日本と同様に地震が多いイタリアでは、家族ごとに簡易ベッドや冷暖房機が備えられた大型テントが提供され、避難所で調理されたばかりの食事が提供されるなど、避難所環境が整備されています。このように迅速な対応が可能なのは、各市区町村ではなく、国の災害専門機関である市民保護局が避難所の設営や生活支援まで一貫して指揮を執っているためです。さらに、国が指揮してくれるため、被災した自治体の職員も被災者として保護され、避難所運営は被災地以外の自治体の職員が担当することが一般的です。


日本では自助の精神が強く、内閣府の避難所運営ガイドラインには「被災者自らが行動し、助け合いながら避難所を運営する」と明記されています。これは美しい精神性と呼べるかもしれませんが、我慢して耐えしのぐという風潮が避難所整備の遅れの一因となっています。防災技術やインフラ復旧の速さなどのハードの分野では、日本は優れていますが、被災者の生活環境の改善などのソフトの分野は他国から学ぶべきことが多いように感じます。

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