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Yudai Musha

Issue 192 - 若い世代の目線で紐解く社会トレンド

今回のSeattle Watchでは、弊社でインターンとして働いてくれている武者君が、若い世代の目線で特に関心を持っている米国における社会トレンドを引き続き紹介します。今回は、「ソーシャルメディアの未来」、「銃社会のジレンマ」、「多様性とステレオタイプ」について見ていきます。

 

ソーシャルメディアの未来

Elon Mask氏がCEOに着任して以来、話題が絶えない元Twitter社(現X社)ですが、このようなMask氏の自由奔放な振る舞いに嫌気が差し、代替となる別のSNSを探す人も出てきています。そこで注目を集めているのが、MastodonやBlueskyのような分散型SNSです。分散型SNSは、TwitterやInstagramのように一つの企業が管理や運営を行う中央集権型のSNSと違い、複数の個人や企業がインスタンスと呼ばれるサーバーを立てて、独自のコミュニティを形成しつつ、全体がゆるいつながりを持つという仕組みです。これらの分散型SNSで注目されているのが、Fediverse (フェディバース)という考え方です。フェディバースとは、複数の独立したソーシャルメディアが相互に接続・連携したネットワークのことで、フェディバースに参加する(通信プロトコルを共有する)サービス間では、同一アカウントでサービス間を行き来できます。例えば、ひとつのアカウントで各サービスの投稿を見て、いいね!をしたりコメントしたりできるようになります。しかしながら、これらのSNSが現実的にTwitterに取って代わることができるのかについては疑問の声もあります。その理由には、分散型に起因する複雑性や規制、約3億人のユーザー数をもつTwitterから別のSNSに移るというスイッチングコストにあります。Twitter上で、Twitter社やMask氏についての議論が見られるうちは、この中央集権的なSNSに代わる存在が出てきていない証拠になっているのではないでしょうか。


銃社会のジレンマ

米国では、約4.7億丁の銃が出回っており、そのうち民間人の間に出回っている銃は、1人当たり1.2丁分に相当すると言われています。そして銃によって毎年4万人以上の死者が出ており、ここ数年は銃による死者数が増加しています。なぜ米国は、銃社会から抜け出すことができないのでしょうか。その理由は、合衆国憲法修正第2条で定められている「武装権」(銃器を始めとした武器で武装する権利)にあります。この武装権を巡っては、民兵を組成するための州の権利であって個人に銃所持を認めたものではない(集団権利説)とする銃規制推進派と、個人が武装する権利である(個人的権利説)とする銃規制反対派が長く対立しています。しかし、歴史的に米国は(イギリス植民地から独立して)自由を自らの手で勝ち取ったという意識が根強く、銃は権力への戒め(抵抗権)や自分の身は自分で守る、つまり銃保有の最大の理由は「犯罪から自らを守る」という意識もあり、一筋縄では解決できないのが実情です。それでもバイデン政権は、ここ数年の銃乱射事件を鑑みて、昨年、約30年ぶりの銃規制強化に乗り出しました。民間でもコロラド州のスタートアップであるBiofireが初の商用の生体認証スマート銃(スマホのように個人認証が必要になるため、子どもの誤発砲や自殺を防ぐことが期待される)を発売するなど、問題の解決に向け取り組んでいます。(銃を作っていることに変わりないという批判はありますが)またZ世代は、銃規制への関心が強いことが分かっています。2018年にはフロリダ州の高校生たちが中心となって全米規模のデモ活動を起こした例もあります。このフロリダ州では、昨年中間選挙で銃規制を訴える25歳の民主党議員が誕生しています。彼らが銃という既存の脅威と戦い続ければ、いつしか銃から解放された世界を手に入れる日が来るかもしれません。


多様性とステレオタイプ

リトル・マーメイドは、白人女性でなければならないのでしょうか。先月公開された実写版リトル・マーメイドは、アリエル役の主演が従来のイメージと大きく異なるドレッドヘアーの黒人女性であったため、公開前からSNS上で物議を醸しました。同映画の興行収入は、米国内では現時点で2億9653万ドルと、これまでのヒット作と比べてもあまり大差がないですが、国外市場、特にアジア市場では公開から伸び悩んでいる状況です。近年のディズニーは、ポリティカル・コレクトネス(特定のグループに対して差別的な意味や誤解を含まぬよう、政治的・社会的に公正で中立的な表現をすること)に配慮しすぎているとの声も多く見かけますが、歴史的に、ディズニーは時代の変化に合わせてDEIに取り組んできました。テーマパーク事業では1950年代の公民権運動の時から先進的に全ての人種に門戸を開いており、その後も、さまざまな人種や民族的背景を持つ俳優と声優陣を起用した「ライオンキング」や、アフリカ系アメリカ人プリンセスが主役の「プリンセスと魔法のキス」の制作をしてきました。今回のアリエルの監督/制作を務めたRob Marshall氏は、「キャスティングの際に、人種は一切考えなかった。アリエルの役柄にぴったりハマったのが彼女だった。」と語っています。ディズニーは、ただ忠実に「アリエル」というキャラクターを再現しただけであり、見た目のステレオタイプに囚われていたのは夢を見る側だったのかもしれません。


今回は米国の社会トレンドを扱ってみました。特に銃社会に関しては、日本ではなかなか考える機会がないと思います。しかし、米国の問題を対岸の火事として見るのではなく、なぜ容易に解決できないのかを考えることは私たちの生活やビジネスのヒントになると思います。例えば、銃規制が進まない要因を上記の記事の内容からもう少し踏み込んで考えてみると、人々の潜在的な意識の問題が見えてきます。人間は同じものを得る時に感じる価値よりも、失うときの方が4〜7倍も大きな価値を感じてしまうというバイアスが発生します(授かり効果バイアス:Endowment Effect)。つまり、米国で銃を取り締まろうとすると、既存の権利を取り上げられるという人々の意識が働き、強い抵抗感が生まれると考えられるのです。そしてこの権利意識は、時間が経過するとともに強まるため、対処が難しくなってしまいます。企業に置き換えて考えてみると、事業や組織の変革において、既存のビジネスから撤退したり、制度を取り払ったりする場合にも授かり効果バイアスが発生しているのではないでしょうか?自分が無意識に抱いているバイアスに気づいて、定量的なデータや事実に基づいて意思決定を行うことは、どのような場面においても意識すべきことであると感じます。



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